PowerBook G4 Gigabit Ethernetが発表されました。外観の変化がなく、お得意の基調講演でのパフォーマンスもないまま静かに発表された割には、各方面で評価が高いようです。
一番期待できるのは133MHzのMPX Busと4×AGP接続されたRadeon Mobilityで、それだけで購入を決めた人もいるようです。その反面、L3キャッシュインターフェースのないPowerPC 7440*1に不安を覚える方もすくなくありません。そこで、簡単にPowerPC 7410とPowerPC 7440のパイプラインについてふれてみたいと思います。
181_ Instruction Flow Diagram of PPC7410は命令が読み込まれてから、結果が得られるまでの流れを図にしたものです。まずFetchで取り込まれた命令は、一度に2個、分岐命令を入れれば3個がDispatchユニットに流れ込みます。Dispatchは、命令を分類し適切なパイプラインに放り込みます。パイプラインの長さはまちまちですので、結果をそろえて整える部分がComplication Queueとなります。
図中の赤い色で示したユニットは実行ユニットであり、メモリの出し入れを主に
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処理するLSU、比較的簡単な整数演算を行うIU、かけ算やわり算、一部の特殊な演算など時間がかかるものを処理するSRU、浮動小数点演算を行うFPU、Altivecの処理をするVPUや、その整数演算部分であるVSIC、処理時間のかかるVCIUと浮動小数点をあつかうVFPUがあります。これら9本のパイプラインが並列して、処理が行われいます。
これに対し、182_ Instruction Flow Diagram of PPC7440は、処理の段階が増えています。Dispatchのあとにパイプラインへの投入を最適化するQueueが加えられています。また、処理時間に時間のかかるSRUはIU4(原著ではIU2)に置き換わりますが、3倍の長さに増加しています。同様に浮動小数点も3段から5段に増加しています。また、Finishと呼ばれる後処理が加わることで、これまで一段で済んでいたAltivecの整数演算処理が2段になってしまいました。
いったんパイプラインが埋まれば、クロックにあわせて回答が得られますが、分岐命令や演算結果によっては、はじめからやり直す必要がでてきます。こうしたことから、パイプラインの段数が増えてレイテンシ(処理が始まってから
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結果が得られるまでの待ち時間)が増加してしまうと、パフォーマンスが落ちます。7440ではより早い動作クロックを目指すため、複雑な処理にはパイプラインの段数を増やして対応するという設計になっています。そのためパイプライン間のレイテンシの差が開いたための対処が随所にみられます。
それでは実際のレイテンシを比較するにはどうしたらよいのでしょうか。PowerMac G4 733 Quick silverとPowerMac G4 533 Digital Audioの比較をすればよいかもしれません。そうすればL2キャッシュの容量による違いも比較できてより実際に近いでしょう。
あえてここでは、実レイテンシを比較してみることにします。183_ 7440/667MHz vs. 7410/500Mhz, Stages of execution units*1には、クロック周波数の違いを考慮した上で、作図してあります。
単純な整数演算部分でさえ500MHzのPowerPC 7410のほうがレイテンシは短くなることがわかると思います。
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Altivec以外のすべての処理でレイテンシの絶対時間が増加しています。特に整数の乗除算に使用されるIU4と浮動小数点演算を行うFPUの悪化が目に付きます。IU4に関しては、実際の差はわずかでが、浮動小数点演算には影響があるでしょう。
整数演算に関しては同時に3つの処理ができるようにDispatchユニットが増強され、パイプラインも増加したので、大きなデメリットにはならないはずです。
単調な繰り返し演算を主体とするベンチマークテストでは、パイプラインがきれいに動作し、クロック周波数の上昇分の性能アップがあるような結果がでるでしょう。しかし、アプリケーションを操作すると、思ったほどの性能増加が感じられないかもしれません。
また、倍速化したL2キャッシュクロックもその容量の不足が心配されます。
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もちろん、体感速度に大きく影響するグラフィックアクセラレーターの処理速度の倍増が予想されるため、大変快適でパワフルなPowerBookに仕上がっていることでしょう。しかし、PowerPC 7440の実力を発揮するには800MHz以上がほしいところです。
1GHzのクロック数と512キロバイトの内蔵L2キャッシュを搭載し、短めのパイプラインと200MHzのFSBを実現しつつ、800MHzで3.6Wしか消費しないという750FXが発表されました。SOIとSiLKと0.13μmルールという生産技術でPowerPC 7440を作り直してPowerBook G4 1000を待ち望むばかりです。
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*1 28/Oct その後、PowerBook G4 Gigabit Ethernetに搭載されたのはPowerPC 7451であることがわかりました。PowerPC 7451はPowerPC 7450のマイナーアップグレードバージョンとされています。実行ユニットの構成やパイプライン構成に7440や7550と違いはありません。またL3キャッシュも搭載されていないため、性能的には7440と同じとなります。本文中の表記は搭載チップの名称のみ読み替えていただければ、問題ありません。
FAQ BBSのかき込みより
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