IBMのPowerPC Microprocessors and Embedded ControllersにPowerPC 750CXが登場し、一時は消去されていました。本日未明に再度登場し、今度は内容もダウンロードできる様になっています。PowerPC 750CXが今後のPowerBookの未来を占う上で重要な立場をしめるチップであることは確かです。PowerPC 750CXとはどんなチップなのか、その後に控えているPowerPC 750CXeとは、そしてその先は?今回は急遽PowerPCの近未来をテーマにお話を進めましょう。
Intel、AMDの熾烈な戦いで、Pentium系のCPUの駆動周波数が1GHzを越えているのに対し、PowerPC G4は500MHz止まりと倍もの開きとなっています。材料工学、生産技術で他社よりも数歩先を歩んでいると言われるIBMは、何をしているのか、何を目指しているのでしょうか。032_Copper-based CMOS 7S process technologyに示すように、IBMは他社に先駆け銅配線技術を量産技術に取り入れ、細くなることで上昇する配線抵抗を、材料変更で引下げました。消費電力、発熱量を低下させることで、より高速に駆動する031_IBM PPC750Lを発表したのはもう過去のことです。配線ピッチが0.20μmの現在のPPC750Lでは、従来のアルミ配線と比較してそれほど大きなアドバンテージはない、と言われています。しかし、PowerBook 2400ユーザーがIBMのアルミ配線のG3 アップグレードカードから、銅配線技術を取り入れた320MHzのアップグレードカードにしたときに、あまりの発熱量の小ささに驚きを禁じ得な
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かったのは、先端技術を肌で感じた瞬間だったのかもしれません。
銅配線技術が本領を発揮し始めるのはより配線が細くなった時です。今回発表されたPowerPC 750CXは0.18μmの銅配線技術を使用しています。
同じクロック数で比較すると消費電力は85%に低下しています。この数字は驚異的です。というのはPowerPC 750CXには256KbyteのL2キャッシュを内蔵しているからです。
例えばSamsungの512KbyteキャッシュチップであるKM736V799を233MHzで駆動すると最大1.7Wもの電力を消費します。PowerPC 750CXは400MHz駆動時のTypicalな省電力は4Wに過ぎません*1。400MHz駆動時の内蔵L2キャッシュは、クロック周波数と同じ速度で動いています。PowerPC 750Lの消費電力が4.7Wですから*2、その消費電力の小ささが判ります。
早くなったL2キャッシュですが、容量は4分の1になりました。速度はどの程度違うのでしょうか。IBMの試算では同じクロック数ではPowerPC 750Lの87%前後の性能があるようです。PowerPC 750CXの最大駆動周波数は550MHzと1割上昇していますが、従来のPowerPC 750L 500MHzと比較すると、若干の性能後退と評価するしかないようです。
また内容的にもG4で採用されたLFQユニットの採用は見送られ、L3キャッシュ
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対応の伏線も見られません。またピン数も360pinから256pinに変更されているため、基板の設計も見直す必要があります。ただし033_Silicon On Insulator採用に向けての伏線であるとするなら許せるでしょう。銅配線がLSIの配線技術の改善なら、SOIはトランジスタの性能向上に向けた技術です。
SOIとMOS型トランジスタ概略
初期のSOIは薄いSiliconを絶縁物質に張り付ける形で開発が進められました。高電圧に耐えることや、宇宙線などの影響を減らす技術として宇宙開発に寄与しました。現在は、シリコンウェハーの製造過程で酸素イオンを注入し、シリコン層の直下に酸化物層を形成することで実現しています。Siliconの上に形成されたMOS型トランジスタの略図を示します。片方のN極の電圧が高く、片方が低い場合、P極の電圧が上昇すると両N極間に電気が流れます。この時のN極の下方向、すなわちSilicon基材の方
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向へのリークは無駄な容量となり、スイッチングに必要な電圧を押し上げます。
ここに酸化物層を置き、絶縁することでN極の容量が減り、より高速にスイッチング出来る様になるし、駆動電圧を下げることが可能となるのです。おそらくPowerPC 750CXeはSOIを取り入れ、半分から3分の1の消費電力と、より早いクロックを手に入れるでしょう。
SOIを使用するとIBMは35%の高速化が可能であると説明しています*3。PowerPC750CXeの動作周波数が700MHzに達すると言われているのはこの為であると考えられます。
その先には何が控えているのでしょうか。034_Cu-11 with "low-k dielectric" SiLKTMは
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本年の4月にIBMが採用を発表した配線絶縁技術です*4。これまで30年にわたり絶縁物質として使用されてきた硝子は、より微細な配線が現実のものとなった現在、その役目を十分に果たせなくなってきました。他社がフッ素を加えたSiOFを実用化しようとしている段階に対し*5、Dow Chemical Companyが開発した、SiLKを採用し、この7月にはまずはASIC(application specific integrated circuit)を、そして早ければ2001年には量産化すると言うのです。
低誘電率層間絶縁膜であるSiLKを使用し、0.13μmルールでの配線が実現化すれば現在よりもさらに20〜30%の速度向上が見込まれると言うのです。SOIとの組み合わせで900MHzで駆動するノートブックはもうすぐそこまで来ているのかもしれません。
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*1PowerPC 750CX Microprocessor(PDF)
*2PowerPC 750 Microprocessors(PDF)
*3SOI Technology: IBMユs Next Advance In Chip Design(PDF)
*4CNET Japan Tech News:IBMの新しい製造工程でチップ速度が30%向上 Apr/4 2000
*5NIKKEIMAC.COM:Low-k(ロウ・ケー)層間絶縁膜:CPUの高性能化を加速する新材料技術2001年には採用製品を出荷開始 30/May 2000
謝辞
IBM Internet Support GroupのM. Trench氏と、日本IBM広報部より、画像の提供、Web内データ及び画像の使用の許諾を頂きました。この場を借り、御礼申し上げます。
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