新しく発表されたiBookは、IBMのSideWinder/PPC750CXを、初めて搭載したモデルです。次期PowerBookにG3系が選ばれるのか、それともG4系が載るのか、今回のiBookは試金石となるでしょう。
これまでも、PPC750CXについては何度か取り上げてきました*1 *2。PPC750CXは低消費電力、低コストを前面に出したCPUで、同じクロック周波数のPPC750Lと比較すると性能は劣りますが、CPUクロックで動作する256KbyteのL2キャッシュをCPU dieに内蔵するため、PPC750Lと比較すると1.6倍の速度でL2キャッシュが働きます。(cache ratoは1:2から1:1と倍増するが、実行効率は2倍に満たない*3)ただし、L2 cache容量が固定されているために、L2キャッシュミスの発生率が1Mbyteのバックサイドキャッシュを搭載するPPC750Lと比べると4倍になります。L2キャッシュミスによるペナルティは、メモリアクセス速度が8分の1 から10分の1へ低下するという大きなものです*3。
ベンチマークテストによっては、必要以上にキャッシュ容量の違いが影響するものもあります。例えば、Norton UtilitesのSystem infoは、メモリ転送ポイントがCPUベンチマークに強く影響し、L2キャッシュ容量の小さな750CXには厳しい値がでるようです。逆に言えば1MbyteのL2
|
CPUの項目の中の「検索」テストのほうが、アプリケーション性能とよく相関していキャッシュを搭載する750Lに甘い値が出ます。例えばSystem infoで計測するならるかもしれません。
そのことをふまえ、今回のiBookの基板を眺めてみましょう。088_PPC750CX-DP10-3が今回始めて採用されたPPC750CXです。CPU dieは裏側中央に位置し、その周辺にピンが並んでいるため、PPC750Lと比較すると104pin少ない256pinですが、チップの大きさは2mm大きくなっています。チップ表面は熱の放散をよくするため、銅製のHeat Spreaderが張り合わされ、スッキリした外見になっています。
089_1st iBook (obverse)と090_iBook (FireWire) (obverse)を比較すると、マザーボードの設計が違うことが判ります。細かく見ると電源部、液晶インバーターのコンデンサの付け方も違います。Uni-North ICのパッケージが変わりました。Uni-NorthについてはPismoよりFireWire Link layerの安定性が増したという報告があります。091_1st iBook (reverse)を見ると、このときからFireWire PHY ICの装着パターンがあるなど、初期からFireWireの搭載が予定されていた節があり、今回のマイナーバージョンアップでそれが実現したと言えるでしょう。
092_ATI RAGE Mobility-L(1st iBook)から、内部描画エンジン性能が上昇したATI
|
RAGE Mobility 128が使用されています。
093_iBook SE (FireWire) block diagramにアーキテクチャブロック図を示しますが、CPUと60xバスとメモリバスの速度を除くチップ構成、構造はPowerBook (FireWire)と変わりがありません。次期PowerBookにPPC750CXeが搭載されてもiBookとの差別化という意味ではインパクトに欠けるでしょう。iBookが2台買える値段のPowerBookとしてはL3 cacheインターフェースが搭載されるというIBMの通称「Anaconda」、もしくはG4という選択ですが、ロードマップに忠実なIBMのチップを待つか、G4の消費電力が下がるの待つか。Appleの思惑は複雑のようです。
謝辞
Amulet様の協力でiBookの分解撮影が出来ました。特に鈴木氏の「バラシ」のスキルの高さには驚くばかりです。どうもありがとうございました。
#1 PowerPC 750CX,SOI,SiLKについて
#2 Macintoshの行き先とPowerPC 750CX
#3 PowerPC 750CX Processor: High Performance with Integrated Multilevel Caching (PDF)
|