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821_ Xserve G5 for the HiPER SYSTEM
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医師の開発するシステム
「医療者がシステム開発する理由は、データハンドリングアルゴリズム開発にあり、非医師である技術者が開発できない領域である」と感じている。
データーベースが「誤り無く、情報を蓄積し、誤り無く情報を引き出すもの」と考えるなら、確かに技術者のほうが、何倍もすばらしいシステムを開発するだろう。しかし、電子カルテシステムでやり取りされている、情報の「正確性」は低く、頻回の運用変更にシステム改変がついて来れない現状では、完成時からすでに電子カルテは破綻しているとも言える。
技術者の作る電子カルテ、「真正性」「見読性」「保存性」とよばれる硬直的なシステムとは別に、そうした情報を運用にあわせ即時的に改変、修正、補完をほどこした可塑性に富む補助システムが必要であると考える。ここに「医師が開発するシステム」の存在意義があるのではないか。
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The Necessity of Medical Information System Developed by Medical Staffs
(1) Introduction: The safety, reliability and validity of medical information system rely on self-responsibility of each medical institution. When this was a paper-based system, it was easily comprehensible and could be operated without complex considerations. Although the internal structure of computing system is generally incomprehensible, medical institutions still has their "accountability" to explain the function and operation plan of the system and its electronic preservation. In addition, there is a "care and custody" responsibility to run the system properly. To secure the safety and the accuracy of the information system, "technical correspondence" and "systematic correspondence" are both required. For example, "technical correspondence" is to mount the appropriate warning system and/or input limitation inside the system, usually done by the system vendors. On the other hand, "systematic correspondence" is a flexible operation done by the responsibility of each medical institution. These two should be arranged by combination under the comprehensive judgment with risk analysis and economical considerations. Though the accuracy of the database obtained from existing systems valuing the "systematic correspondence" for operational convenience was below expectation.
(2) Methods: We have constructed the new medical information system analyzing the existing hospital information system in real time, observing and classifying the information given from various ordering systems and the description from patient records, displaying the patient information at a glance. Physicians used this system predominantly and thus it was very important that these physicians design it, in substantial part. Also the involvement of medical staffs was critical to be able to ensure that the information they can get is the information that they need.
(3) Results: The system was capable to detect the point where the medical service was stagnated abnormally. The warning system detecting the key person on charge for the medical service, reaching the right personnel to inform and warn was mounted. Not only the anomalous data but also missing data and lacking orders were easily detected. The educational effect was obtained by transmitting the warning information to an appropriate operator at appropriate time.
(4) New or breakthrough work to be presented: We will present a feature of this newly constructed physician oriented comprehensive medical information system.
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822_ layers of the database with HIS
システム構造
入力層自体もリレーショナルデータベース構造を持ち、データーベース層と密接に接続していることで、頻度情報をはじめとする入力支援が成立している。また、表示層もデーターベース構造を持ち、医師のデータ閲覧の仕方自体が重要な情報として他のレイアーでも利用されている。
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テンプレートXML解析エンジン
富士通製HOPE/EGMAIN-EXシステムのテンプレート入力を解析し情報を即座に抽出している。
喘息治療薬抽出エンジン
フィルタ機能を搭載し、吸入薬、ステロイド薬、テオフィリン製剤など関連性の高い薬剤は、処置および注射実施情報全部をスキャンしリアルタイムに自動データ入力している。
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HIS(病院情報システム)との連携
病院基幹システムから50〜500程度の要素を持つ情報電文を1年間で約500万個収集した。これらの情報は運用を重視した結果、不正確なことがある。これを前後の情報から修正あるいは補完して格納した。
情報電文は双方向で、二重入力を排し,真正性を担保する部分はEGMAIN-EX側に持たせることで、システムの柔軟性を確保している。
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823_ tab interface
診断支援システム(Computer-Based Clinical Decision Support System)の使用頻度が低いのは、情報提示のタイミングが不適切で、ワークフローに適合しないためである。
診療のワークフローが医師によって異っていても、必要な情報を望みの通り即座に得ることが可能な、タブインターフェースを採用した。どの画面からもアクセスできるため、閲覧順序を強制されず、ワンクリックで必要な情報にアクセスできるだけでなく、画面のオリエンテーションが明確になった。
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頻度連携型連想入力
頻度連携型連想入力は、医師別に症状、所見の使用頻度を集計し、使用頻度が高いものを候補とした。ただし、これでは入力内容に偏りが出ることが分かったため、部位別、関連別に症状および所見候補が浮上するように設計している。
入力インターフェースとデーターベース構造を密接にした設計によ結果といえるだろう。
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治療方針、計画評価入力
治療方針の変更、計画などの立案、あるいは投薬変更があると、リマインドとしてリストアップするだけではなく、後日チェックアウトする時点で医師に評価させることによって、情報に修飾が行われるようにした。
こうした評価情報は、コードの修飾だけではなくカラータイルの変更も含み、診療履歴集約画面での一覧性を高めている。
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824_ an argorithm of SYMPTOMICS
所見、治療、判断、評価など14277所見を、いったん抽象化、細分化を行い、32bitの特徴コードに変換した。それを合成し262種類、3872個の動的コードあるSYMPTOMEを得た。
さらに動的コード(SYMPTOME)の頻度分布を集計し,発生頻度の高い上位75種類のコードに関して、判別しにくい二つの病態それぞれの分散分析をおこない、二群の違いを検討した。
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824_ an argorithm of SYMPTOMICS
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825_ The HSV (Hue, Saturation, Value) color space
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825_ The HSV (Hue, Saturation, Value) color space
結果を色表現とする場合、人が認知しやすいよう、HSV系色空間を利用した。Sは彩度であり,Sが大きければ鮮やかに、Vは明度であり,低ければ暗くなる。
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826_ main form for physicians
集団から得られた動的コード視覚化パラメーターが、個人にも当てはまるかを検討した。対象として、とくに鑑別が難しい3歳以下の一過性喘鳴群と喘息群を対象とした。
記録時の年齢による偏りは統計学的に認めなかった。
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826_ main form for physicians
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827_ result of SYMPTOMICS color chart
得られたSYMTOMEを、集団から得た情報を用いて着色し、個人ごとに表示した。症例1から10までが一過性喘鳴症例で、早期に治療終了、あるいは喘息治療を要さなかったもので、症例11から症例21は継続した喘息治療が必要だったものである。
それぞれの群には共通するパターン傾向があって、鑑別可能であり、一過性喘鳴群と喘息の早期診断に役立つことが示唆された。
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827_ the result of SYMPTOMICS color chart
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はじめに
小児喘息治療のearly intervention(早期介入)として、発症の危険性が高いと考えられる小児に対する発症予防と、既に発症してしまった小児に対する発症後早期からの重症化、難治化予防がある。前者に関しては発症前に予防する一次予防および二次予防の有効性(1)、発症後に予防する三次予防にも介入群に効果がみられており(2)、環境整備は小児気管支喘息の早期介入のなかで重要な部分を占めていると考えられる。
炎症が、小児においても気道のリモデリングを進行し(3,4,5)、気道過敏性の亢進や、不可逆的気道病変を引き起こすという考えから、発症早期からの積極的な治療介入を行うことの重要性が示されている(6)。しかし、小児喘息の多くは乳幼児期に発症するが、必ずしも典型的特徴を示さず、こうした発症早期の対象者をどのように選択し、何を指標として治療効果の判定をするのかなど検討すべき点が多い。
一方、コンピュータを利用した診療支援システムは,呼吸管理支援システム(7,8)や感染コントロールのための抗生剤処方支援システム(9)、検査結果警報システム(10)など効果的だとする意見が散見され、機器の進歩とともにモバイル機器を使ったオーダーリングシステムは費用対効果が向上するとした報告(11)も認められるようになった。しかし,多くの電子カルテシステムは単なるワードプロセッサの域を超えず、ガイドラインなどを内蔵した診断支援システムは完成されたものはなく(12),入力が煩雑で有用でなく(13)診察時間が延びて費用対効果も悪化したという(14)。コンピュータを使用することで期待された投薬ミスの未然防止に関しても、効果がないとするものもある(15)。
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こうした背景をふまえ、私たちは乳幼児あるいは小児の気管支喘息患児および、気道症状を示す非気管支喘息児を含む外来受診者を対象に、症状、所見、診断、方針、治療をはじめとする診療情報を網羅的に蓄積し、定量化するための入力および分析する支援システムと、そこで得られた診療情報を動的にコード化し、臨床的に区別が難しい二群を区別するための臨床情報視覚化手法であるSYMPTOMISを開発したので報告する。
方法
FileMaker Proサーバー、クライアントシステムでリレーショナルデータベースシステムを構築し、ギガビットネットワークを使い、7カ所で診療と同時にデータ入力を行った。効率的な情報収集のために、オンデマンド型バーコードシステム、頻度連携型連想入力、強制ポップアップ式テンプレートを装備し、2年間の症状、治療計画、治療内容を一瞬で把握できるスキミング機能を装備した。
また医師によってワークフローが異なる場合でも、必要な情報に即座に到達できるよう、タブインターフェースを採用した。(図823)装置の利用率は40%前後で最大でも52%と従来よりも高いが、網羅的と言える状態ではないため,医療情報基幹システムとの連携を行った。
(1) 受付業務
再来受付機と医事システム(HOPE-EX)との連動を行い、新患登録と受付業務の自動化を実現した。
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(2) 患者呼び出し補助装置の追加
研究に参加しない医師にもシステム使用を促すために、診療開始を確実に受付スタッフに伝達する装置を作成した。診療業務に本システム操作の必然を織り込むことで、医師に利用を促した。
(3) 検査結果速報システム 検体検査システム(CLINILAN)との連動を実現し、検体検査結果のリアルタイムでの連動を実現した。過去16年分の検査結果を時系列で表示することが可能となるだけではなく,迅速診断のうちでも特に感染コントロールに有用な情報を選択的に、受付一覧画面に表示する機能をもうけた。また、緊急検査結果速報を医師のPHSに送付する機能など,これまで有効性が報告されている機能(10)に関しては積極的にとりいれた。
(4) 処置入力の省力化
電子カルテシステム(EGMAIN-EX)とオーダー通信連携を実現した。リアルタイムですべての処置や生理機能検査オーダーが取り込まれるため、病状把握が簡便になるとともに、医師の入力軽減を実現した。また、喘息治療経過を把握するうえで重要な薬剤に関しての使用状況に関しては、自動的にSYMPTOMICSコードに変換する機能を内包した。
(5) 電子カルテシステム(EGMAIN-EX)でテンプレートを使用して入力した喘息に関しての所見情報は自動的にSYMPTOMICSコードに変換されて入力される,リアルタイムテンプレート解析機能を装備した。
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(6) 所見情報の転送
診療支援システム(HiPER)によって作成された診療録を電子カルテシステム(EGMAIN-EX)へ自動送信し、所見の二重入力を廃した。
(7) 東京ER広尾看護支援システムとの連動
慢性疾患(とくに小児気管支喘息)の増悪時に救急外来を受診することは少なくない。そうした情報もあわせて収集するため、看護支援システムとの融合を実現し、正確性を向上した。
(8) SYMPTOMICSの創成
診断名をのぞく症状、所見、方針、治療など約700種類のエントリーを24項目に細分化後抽象化,入力時に合成することで得られた動的コードを,疾患群別に発生頻度を検討した。そこで得られた回帰係数とp値をもとにHSV色空間に変換し、カラーチャートとして表現することで,二群の差を視覚的に表現する手法をSYMPTOMICSと命名した。(図824)
結果
平成15年3月から平成18年2月までの3年間に小児科外来を受診した患者のなかで,一過性喘鳴群と判断された26名と気管支喘息患児55名を対象に、のべ2700回の診察で14300所見から,3800個の動的コードが合成された。これらは380種類あり,発生頻度の高い75種類に関して回帰分析を行った。得られた回帰係数は-8.879から11.441に分布した。回帰係数を色相にあてはめ,
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p値が小さければ彩度と明度が高くなるように次の計算式を用いた。(図825)
H=回帰係数×20+100
S=1−√p値
V=1−√p値
HSV色空間をRGB変換し、患者ごとにすべての動的コードを時系列順に左からカラーチャートとして表示した。
さらに一過性喘鳴と気管支喘息の鑑別が難しい3歳以下を対象に、鑑別可能か検討した。このとき3歳以下をカットオフ値としたとき、記録時の年齢による偏りは統計学的に認めなかった。(図826)
対象となった一過性喘鳴10症例、喘息11症例をSYMPTOMICSによって視覚化したものを図827に示す。
倫理および情報セキュリティー
平成14年12月3日に行われた都立広尾病院倫理委員会において「小児慢性疾患予後調査に関する研究」として承認を受けている。
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考察
オンデマンド型バーコードシステム、頻度連携型連想入力、強制ポップアップ式テンプレート、2年間の症状治療計画、治療内容を一瞬で把握できるスキミング機能など診療支援装備したが、オーダーリングシステムと連携していない状態での装置の利用率は40%前後で最大でも52%と、満足できるものではなかった。診療業務中に平行して入力作業を行うには、診療支援部分を拡充し、医師にシステムを使う動機づけが必要で、入力に関する省力化が不可欠である。
病院情報システムとの連動は有効で、1年で500万件余りの情報を収集することができた。
動的に生成された所見コードは一見すると無意味なものとなったが,回帰係数とp値を用いて人の色認知に自然なHSV色空間に変換して表現することで、集団から得られた情報を、個人に帰着しても鑑別可能であり、一過性喘鳴群と喘息の早期診断に役立つことが示唆された。
診療情報視覚化手法であるSYMPTOMICSは他の疾患群にも応用可能であると考えられる。
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