Medical Aug 15 2008
HiPER 2.0: Realtime Intervention
即時介入
医療情報システムでリアルタイム処理を検討すると、メーカー技術者は「それは無理だろう」という顔をする。サーバアンドクライアントシステムで、機微な情報を大量に蓄積し、複雑な排他処理が必要とされる電子カルテシステムでのリアルタイム処理は無理であると、最初からあきらめムードである。
問題はサーバ負荷だけではない。未確定情報が混在するデータのどれを信用すべきか。現場の運用にあわせるため、情報が欠け落ちたデータをどう解釈するか。その場で電子カルテに格納された病歴を活用するためには、超えなければならない技術的なハードルが高く、多岐にわたるため無理と決めつけているのかもしれない。
Realtime
医療情報システムは証拠能力を求められるため、表示された画面が至上となる。修正前の情報は履歴として保存され、もっとも版数が大きな物が正しい情報であるとされる。単純明快な仕組みである反面、リアルタイム処理をするときに厄介な問題になりえる。点滴などのオーダーは医師の逡巡がそのままシステムに反映されるため、幾度となく削除、修正が加えられ、情報を活用しにくい。
リアルタイム処理するには、情報が発生した瞬間に利用しなければならないが、前記の理由でそれが難しいのだ。
HiPERシステムは電子カルテサーバーに蓄積された情報を利用するのではなく、電子カルテ端末からの情報をジャーナルとしてすべて受け取り、それらをHiPER自身に再構築している。再構築は数々のレイアーに分かれており、情報の種類によって情報活用のフィルタリングを行っている。オーダーリングの画面構造、医師の思考、運用ルール、さらにはサンプリングされた実情報を統計学的に処理した結果をフィルタリングルールとして、その時点で最も実世界に近い情報を再構築できるように工夫されている。
Rebuildingの項目でも触れたが、このフィルタリングとレイアーによる情報の蓄積は、全体の処理のアクセラレーションにも役立っている。また、修正、削除に備えキャッシュも保持し、発行がキャンセルされたときにはその前のステータスに瞬時に復帰できるようにもなっている。
Intervention
手術前には麻酔科医が十分に薬歴を確認し、止血しにくい治療薬を内服している場合などには適切な処置を行い手術に望むこととなる。しかし、緊急手術など麻酔科医師が関与しない場合、ごくまれにこのチェックが不十分になることがあることがわかった。これはインシデントレポートの分析から得られた情報であるが、通常なら「自科麻酔の場合、薬歴を主治医が十分に確認すること」という内容の周知をするにとどまる。
システム的に防止は出来ないのかとして設計されたのが、「周術期薬歴監視システム」である。しかし、一日数万におよぶ何万行という情報をどう料理すれば実現できるのか。薬歴サーチとなるとそれこそ何百万というオーダー情報の検索を行う必要があるだろう。通常の実装では実現が難しい。
まず、手術情報を手術予約システムから抽出することを計画したが、手術予約は何十回も微調整され、開始時間などが確定しないことが問題となった。そこで、最新の手術予約情報から手術内容のみ利用することとした。ジャーナルを分析すると、手術室が固定運用されている場合、そもそも手術予約情報が欠落することがあることもわかった。そこで手術申し込み情報から補完する仕組みが必要だった。
手術室に入る時間を特定するには、手術室入室認証を利用した。しかし、その10%以上に入力ミスが存在することがわかったため、入室時間とIDのみ採用し、ほかをフィルタリングした。
薬歴に関しては、オーダーが出た時点でフィルタリングを行い、別のレイアーにキャッシュして瞬時に検索が出来るように工夫した。これには処方中止に対応するバックキャッシュも、もうけている。
特定の手術は、逆に抗凝固剤を内服しているので手術室を利用する場合があることや、そもそも出血しない手術に関しては除外する処理など、医学的に妥当と思われる状況だけに反応するようにチューニングを施した。こうして、一日数百万行におよぶオーダーリング情報の中から、問題となる状況を感知し、複数の関係者に同時にPHSを使ってプッシュ情報を送付している。
もっとも時間がかかる処理は、PHSのショートメールを送付するためにデジタル交換機にISDN回線で情報を伝達する部分であり、それでも手術室に入るころには注意を促すことが出来る。こうした、インシデントを未然に防ぐための仕組みが構築されている。一般的な電子カルテ画面上のエラー表示と異なるのは、表示する相手がミスをした本人ではなく、複数の管理者であることである。ヒヤリハットは複数のエラーが重なって重大事故に発展する。エラーを起こしている本人は、思い込みがあるためエラー表示すら無視してしまうことがある。HiPERシステムは、エラーが重なったとき、修正可能な人の目を増やし、「介入」できるようにしている。